「はじめに」でも触れた、私をリペアの世界にのめり込ませるきっかけとなったPearl です。「リペアファイル」でご紹介するのは適切ではないかもしれませんが、リペア工房から戻ってきた後、実は私自身で相当手を加えて今日の姿になっています。現在、9本のアコースティックギターを所有していますが、やはり一番愛着があり思い出深いギターです。作業工程の画像が少なくて申し訳ないのですが、その姿をご紹介したいと思います。
正確な製造年はわかりませんが、おそらく生後40年程度は経っているのではないかと思われます。 刻印は「PEARL GUITAR FOLK MADE BY HAYASHI」とあります。HAYASHIは林ギター製作所のことです。HEADWAYの技術部門の中枢である百瀬恭夫(ももせやすお)氏がこの林ギター製作所に在籍していたことで有名です。
オリジナルのブリッジです。アジャスタブルサドルにはリペア工房で作製してもらったTusqのオフセットサドルがセットされています。 ピン穴に沿ってヒビ割れが生じているのがわかるでしょうか。リペアに出した時はそれほどひどくなかったのですが次第に割れが拡がり、その影響で表板まで浮きはじめてしまいました。取り外して割れを接着してみたのですが表板の浮きが治まりません。 う~ん、こうなりゃ、ブリッジを作り替えてしまえ!ってことで新たに作製することにしました。
いきなりですが、新たに作製 したブリッジです。 素材をローズウッドからエボニーに変更しました。サドルもTusqで新たに作り直し、ブリッジピンは以前から使っていたTusqのものをそのまま使っています。 このブリッジに張り替えたところ、表板の浮きが見事になくなりました。たとえ短時間でもほぼ毎日このギターを弾くので弦は緩めないのですが、全く浮いてくることがありません。ホンのちょっとしたテンションバランスの狂いがボディに与える影響って大きいんだなとあらためて思わせてくれました。 そして、このブリッジを作製する時に、徹底的に弦高を下げてやろう、それでもバズルことがない限界ギリギリのモノを作ってやろう・・・こんなことを考えました。
現在の弦高です。 6弦12Fで約1.6mmです。
1弦に至っては12Fで1.5mmを切っています。 もうホントギリギリです。ベタベタの状態です。 相当強いストロークだとさすがに4~6弦はバズってしまいますが、強めにピッキングしたくらいではバズりません。 どうしてだと思います? それはネックの直線性とフレット高の均一性、そしてナット高とサドル高、ブリッジ高のバランスが取れているからだと思います。 ブリッジを作製する際に、その高さやサドル溝の深さ、サドル高はある程度計算によってはじき出せます。そのラフな状態から少しずつ慎重に掘り下げたり削ったりの作業を何度も繰り返し、ネックの調整とフレットのすり合せ、ナット高の調整を行って現状にたどり着きました。 この経験はとても貴重なものだったと思います。
ホンのわずか順反りになってるのがわかりますか? この微妙な感じが好きなんです。7Fあたりからホンの少し起き上がってスキーのジャンプ台みたいになっています。これで弦のテンションがなくなれば見事に直線に戻ります。
ナットは、以前に作製してもらったものをそのまま使っています。実は、ナット幅とネック幅はドンピシャだったのですが、右サイドだったかに1mm弱ほどずれて取り付けられていたので一旦外して付け直しています。もちろん、ナット溝は再調整しています。 あと手を加えたのは、ペグをGOTOH製に交換したことと、ロッドカバーをローズウッドから削りだしたものにしています。
画像では取り外していますが、普段はFishmanのシングルコイルピックアップとコンタクトピエゾ(2個)を装着しています。 2種類のP.Uをブレンドさせた音色はかなり良質なものです。L.RBAGGSのMIXPROでブレンドさせていますが、このプリアンプ、なかなかの優れものです。 生音もマーチンでもギブソンでもない、独特な深い鳴りをしています。 モノの価値は価格なんぞで決まるのではなく思い入れの度合いで決まるんでしょうね。 まさしくこのPearlはそんな思い入れのこもったPricelessな愛器です。